瀬名秀明氏の作品は大好きなので購入しました。一番好きな作家は誰かと問われると、現時点では彼の名前を部屋主は答えるかと思います。
多少ネタバレ注意です。
あらすじらしきもの
「デカルトの密室」の後日談である表題作「第九の日」を含む、4編からなる短編集です。「デカルトの密室」を含め、全ての作品は「ロボット」シリーズとしてつながっています。物語の流れは「メンツェルのチェスプレイヤー」→「デカルトの密室」→(「モノー博士の島」)→「第九の日」→「決闘」になります。
この4編の短編は、それぞれ過去の名作を、著者がロボットを取材した過程で得た視点で再構築した、「リスペクト」、もしくは「オマージュ」作品ということです。
ロボット技術がいまよりも進んだ近未来の物語です。
「メンツェルのチェスプレイヤー」
進化心理学者の「レナ」と、そのパートナー「ケンイチ」は、レナの恩師であり、ロボット工学や人工知能の権威である「児島」名誉教授の研究所に招かれます。児島教授がレナを研究所に招待した理由は、彼が作り出した「メンツェルのチェスプレイヤー」と対局してもらうため、そして、人とロボットの知能と心、脳や自由意志などについて議論するためでした。
結局、2人の議論はかみ合わず、レナとケンイチは翌日早朝の帰宅を決め、眠りにつきます。そして真夜中、けたたましいピープ音で目覚めた2人が見たものは、「私の研究は成功を収めたことになる。私はロボットに殺された。自由意志を持ったロボットに」と語る児島教授の映像と、死体のない血塗れの密室だったのです・・・
「モノー博士の島」
レナとケンイチは、軍需産業で金を儲け、その資金で遠隔操作型外科手術支援のロボットや義肢や車椅子などの福祉機器を造る軍事企業「BodyGen」の特別顧問であり、老化メカニズムの研究でノーベル賞医学生理学賞を受賞している「ジャン・ジャック・モノー」博士が傷痍軍人や障害者のための再生医学と福祉ロボットの研究の実践を行っている島へと、動物行動学の研究をしている父の身に危険が迫っているという理由で呼び出されることになります。
人間の本性を「人間性を拡張してゆくこと」だと主張し、肉体改造により銃で胸を撃たれても平気なモノー博士に届いた「殺人予告」と、「欺瞞に溢れた紛い物の人間性から守って欲しい」という不可解な頼みに2人は・・・
「第九の日」
エジンバラからロンドンまでの道程を、1人で旅行しているケンイチは、とあるバス停で自分と同じくらいの背丈の子供ロボットとしゃべる子犬と出会い、彼らの住むリタイアした人たちが余生を過ごす町全体がコンピュータで管理されている「エヴァービル(永遠の町)」へ一緒に行くことにします。
けれどその町にはなぜか人の気配はないし、謎のライオンが闊歩している上、ケンイチは教会で監禁されてしまうのです。
一方、レナと同じくケンイチのパートナーであるロボット工学者であり、ケンイチの物語の小説として出版している半身不髄の「ユウスケ」が、そこに名前が記載されると殺害される可能性も高いキリスト教系の過激なファンダメンタリストの断罪リストに載ってしまい・・・
「決闘」
あらすじ自体が「第九の日」のネタバレになるので割愛させていただきます。
部屋主の感想
まず、書いておくべきは、基本的に後の物語が前の物語のネタバレを含むので、上記した物語の流れ順に読んで欲しいということです。
と、帯のあの宣伝文句はなんなんですかね。特に「畢生の恋愛科学小説」ってところと「物語の力が世界を救う」ってところ。正直かなり意味不明です。さらに帯裏のネタバレ本文抜粋・・・出版社の方、読者を舐めてるんですか?
全体的な感想としましては、部屋主にとっては相変わらず考えさせられる内容だったため、前作の「デカルトの密室」同様、読後は凹みました。ロボットに関してはほとんど知識はないものの、脳、進化、認識といったテーマは多少はかじってしてますので、自分の能力の低さが浮き彫りになるのがその理由です。まぁ、もっと努力しろってことなのですがね。
とはいえ、「BRAIN VALLEY」、「デカルトの密室」、「パラサイト・イブ」と比較するとレベルは落ちるかと思います。ただし、心、脳、意識、神といった答えの出ないものに対し、真摯に向き合う姿勢、ロボットを通してそれを表現しようとする試みは相変わらず素晴らしいと思います。ということで以下はそれぞれの感想です。
「メンツェルの~」は、最初は少々退屈なのですが、児島教授が語りはじめるあたりから目が離せなくなりました。自由を求めて没頭するロボット、人間的な身体、人間的な知能と外部からしか判断できないといった主観の問題、自由意志と没頭の関係、脳の働きや身体と環境との関わり、生命進化と適応、リスク評価と行動決定、そして神・・・
短編なのにやたらと考えさせられます。しかもこれらがきちんとミステリ小説の中に収まってるあたりがすごいです(ミステリとしてだけ見ると普通レベルですが)。
ただ、「デカルトの密室」を先に読んでいたため、ラストのオチ(?)が推測できていたので少々残念でした。一応、ここでもそのオチは隠して記事作成してますが、カンの良い方なら予測できてしまうかもですね。独断ランクはBといったところでしょうか。
「モノー博士~」は、人間の本性(ヒューマンネイチャー)、精神・肉体・環境の総体である知能(インテリジェンス)、人間の区別と差別の意識、人間の超える精神と肉体と環境の取得と人間性の拡張、そして神への挑戦とその消去・・・
これまた短編なのに考えさせられます。「メンツェル~」の児島教授の論理はイマイチ納得できなかったのですが、モノー博士の主張は理解できますし、彼のようは人格は好きですね。モノー博士の意見に対するレナの反論(?)なども興味深いです。
これもミステリ仕立てなのですが、ミステリとしては普通レベルといったところでしょうか(トリックが簡単すぎです)。ただ、レナのご都合主義的な設定がけっこうゲンナリします。でもまぁこのマイナス点を考慮にいれても気に入ったので独断ランクはAとしたいと思います。
「第九の日」は、第一の日からはじまるといった手法で書かれているのですが、ラストあたりまではかなり退屈でした。クライマックスあたりは上記2編と同じく非常に考えさせられますが。
ただ、ユウスケとファンダメンタリストのやり取りも少々納得いかない箇所もあるし、これまた何でそうなるの?ってところも少々あるのが残念です。ラストのあの展開も、わからないでもないのですが、部屋主としてはいまいち好きになれません。リスペクト作品を読んでないってのもわからない理由かもですね。
内容としましては、視点の切り替え、全能の視点(オムニツシェンド・ポイント・オブ・ヴュー)、宗教と信仰と自己の関係、本当の読者、個性、物語、偶像でしかないロボットの自己と痛み、創造主の与えたもうた贈り物、そしてブリキの神・・・
これまた盛りだくさんで考えさせられます。視点の切り替えはあらゆる場面で重要な概念だと思いますので、意識したことのない方も今後考えてみてはいかがでしょうか。でもまぁ物語としてはあまり好みではないので独断ランクはBにしたいと思います。
「決闘」は、上記3編の約3分の1の長さです。うとうとしながら読んだことが理由なのか、リスペクト作品を読んでないからなのか、正直、よくわかりませんでした。展開もいまいち納得できませんでしたし。でもまぁなんとなく何を目指しているかはなんとなく理解はできた感はあるし、続編への掛け橋っぽいので、独断ランクはCくらいにしておきたいと思います。
人気blogランキングへ←ポチっと応援お願いしますm(__)m
カウンタ下の本ブログランキングもヨロシクですm(_ _)m
最近のコメント