「姑獲鳥の夏」に続き2作目の京極本です。
多少ネタバレ注意です。
あらすじらしきもの
「雑司が谷」の事件の後始末に追われていた刑事「木場」は、帰宅途中、電車自殺に遭遇します。
電車に飛び込み瀕死の重傷を負った美しい少女「加菜子」が運ばれた病院へ、彼女と一緒にいた少女「頼子」と連れて向かった木場は、加菜子の姉である密かに想いを寄せていた元女優「絹子」と運命的に出会います。
収容された病院では治療不可能だった加菜子は、治療のために専門の研究所へと運ばれていくのですが、そこは巨大な匣のような施設で・・・
雑誌編集者「鳥口」は小説家「関口」を誘い、匣に手足が詰められていた連続バラバラ殺人事件の取材をしていました。
さらに、ひょんなことから鳥口が入手した匣に魍魎を封じ込める民間宗教団体の信者リストには、殺されたと思われ人物の名前が高確率で記されており・・・
一方、探偵「榎木津」は父の知人からの依頼を聞いていました。日本有数の財閥の財産を相続する権利を持った少女の探してくれというものでした。
厳重な警察の監視と複数の関係者の見守る中、瀕死の重傷を負い動く事もできないはずなのに忽然と姿を消した少女の名は「加菜子」で・・・
部屋主の感想
非常に面白かったです。
とにかくびっくりするほど伏線が多いです。
わかりやすいのから、わかりにくいもの、すぐに回収されるものから、最後の最後まで回収されないものまで、種類は色々ですが全部しっかり回収されるあたりが見事です。
あれがこの伏線だったのかと色々と驚かせてもらいました。
ミステリの根幹ともいえる人体消失トリックや、ポイントとなる謎などはわかりやすいといえばわかりやすいけれど(こういうキショイ発想があっさり浮かぶあたり部屋主が変態だという可能性もありますが)、そこに至るまでの過程や、その発想などが実に素晴らしいです。
バラバラになった人体が匣に入ってるなど、色々と猟奇的な(部屋主は大好きなわけですが)ところがいっぱいあるわけですが、それが暗くなりすぎないあたりのバランスも見事ですね。
メインの「関口」、「榎木津」、「京極堂」のやりとりが実に笑わせてくれます。さらに新キャラの「鳥口」などもいいキャラしてます。
関口が「猿」、鳥口が「鳥」、「福本」が「犬」と、これでお供が三匹そろったなと一人でニヤニヤしてました。
とはいえ、キャラクターなら今回は木場がメインといった感じでしょうか。
部屋主は基本的に「京極堂」のような感情を見せない知的で冷静なキャラが好きなのですが、それと対極にいる直情的な木場のようなキャラも実は嫌いではなかったりします。
ある意味でこういう直情さに対しても憧れがありますね。
そして前作同様書いておかねばならないのが、京極堂の考え方のバランスとカッコよさですかね。今回も多少の違いはありますが(糾弾したれ派なので)、占いなどへのスタンスが部屋主自身と被る部分が多いので、そういう風に感じるのかも知れませんが。
彼の薀蓄は非常に勉強になりますし、「魍魎」と物語の絡みもため息が出るほど巧いなぁと思いました。
さらにキャラといえばこれまた今回登場の「美馬坂」教授がいいですね。こういう方面にイッちゃってるキャラも大好きです、というかこれまたある種の憧れがあります。
美馬坂と京極堂のやり取りは実によかったですね。とくに最後の方のは。
1作目も面白かったけれど、さらにそれを上回る面白さの続編を書いてくれるとは京極氏に感謝ですね。
次にも期待です。
この本の部屋主が好きな台詞
「一般に考えられている所謂心霊術なんて奴は、以前と変わらず、いや以前以上に阿呆だと思っているよ。しかしね。否定することと仕組みを知っていることは別だよ。また好き嫌いとできできないも別さ」by京極堂
こういう考え方が自分と似ているので好きなのですよね。
「責任をとらないのなら未来予知はしてはならないのだ」by京極堂
いやはやまったくもってその通りかと。
「ひらすら現世利益を求める愚民の前には、どのように崇高な教義理論も無力なのだ。難解な教えは勿論、時間のかかる修法も、ましてや修行なんてぇものが通用するはずもない。明日から、今から実践できて、即効性のあるような簡単な理屈―横丁のおばはんのお説教のようなのが一番効く。あとはそれにほんのちょっと香辛料を利かせてやれば良い。有り難くて、少しばかり抹香臭いヤツをね。一番効くのはオカルトの香りだったりする」by京極堂
TVで流行ってる江○某や細○某やの信者たちに聞かせてあげたいところですね。こういうものへの対応が部屋主と京極堂の考え方の違いだったりしますが。
「動機とは世間を納得させるためにあるだけのものに過ぎない。犯罪など、こと殺人などは遍く痙攣的なものなんだ。真実しやかにありがちな動機を並べ立てて、したり顔で犯罪に解説を加えるような行為は愚かなことだ。それがありがちであればある程犯罪は信憑性を増し、深刻であればある程世間は納得する。そんなのは幻想に過ぎない。世間の人間は、犯罪者は特殊な環境の中でこそ、特殊な精神状態でこそ、その非道な行いをなし得たのだと、何としても思いたいのだ。つまり犯罪を自分たちの日常から切り離して、犯罪者とは無縁であることを遠まわしに証明しているだけだ。だからこそ、その理由は解かり易い程良く、かつ日常生活と無縁であればある程良い」by京極堂
「そして、本人にも、周囲にも、どうしても納得できる動機が発見できなかった場合は、例の社会的責任能力のない状態、と云う判断がなされるのさ。これは逃げだよ。訳の分らないものは皆、精神病だとか神経症だとか、そういう暗箱にぶち込んでしまえばいいと云う、お得意のご都合主義だ。投棄される先に選ばれた神経症や精神病はいい迷惑だ。そのうえそう云うラベルだけで貼って、その場合は無罪放免だ。社会的には排除しておいて、野に放つ。犯罪者は差別し、なおかつ犯罪は野放しにする。本末転倒じゃないか、馬鹿馬鹿しい」by京極堂
「行き過ぎた動機の詮索は偏見差別と変わりないと云いたいんだ。犯罪と云う忌まわしいケガレを、日常から<排除>しようとする行為に他ならないからだ」by京極堂
ですね。時代設定は戦後ですがまるで現在の社会情勢について突っ込んでるようです。
「もっともらしくて解かりやすいし、また解かったような気になるが、これは間違いだ。今の僕の話こそ、動機などと云うものはどうにでもでっち上げられると云う証拠なんだ」by京極堂
この当たりも是非とも本書で確認してほしいところですね。
「満足とは如何なる時も自己満足だ。それ以外に満たされることなどない」by京極堂
これまたまったくもってその通りかと。カッコいいです。この当たりのやりとりも非常に面白くて好きです。
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