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屍鬼 (五)

「一」「二」「三」「四」に続き「五」のレビューです。

屍鬼〈5〉 (新潮文庫) Book 屍鬼〈5〉 (新潮文庫)

著者:小野 不由美
販売元:新潮社
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部屋主の独断ランク:S

   作品全体ランク:S

けっこうネタバレしてます。未読の方は注意です。

あらすじらしきもの

ついに計画の最終段階に入り、「外場村」に跋扈する「屍鬼」の群れ。

住職の「室井静信」が傍観者となり、村人にもその考えが伝わらず孤立してしまう「尾崎敏夫」。

「屍鬼」の性質や弱点を知り、ただ一人で戦おうとしていた彼も、ついには「屍鬼」の牙に絡め取られ、村は屍鬼に対する機知と行動力を持つ最後の人間を失ってしまいます

一方、敏夫と同じく、一人で「屍鬼」と戦うことを余儀なくされていた中学生「田中かおり」は、覚悟を決めその小さな手に武器を握りしめ・・・

少数の人間による決死の反撃。

とうとう白日の下に晒される「屍鬼」の正体。

3ヶ月間、謎の疫病により家族を奪われていた村人たちは、そのやりきれなかった怒りの矛先を見つけ「屍鬼狩り」を開始します。

屍鬼と人間。

逆転した狩るものと狩られるもの。

殺意に覆われた村に積み重なっていく死体、死体、死体。

果たして生き残るのは屍鬼か、それとも人間か・・・

部屋主の感想

長かった物語もついに最終巻に入りましたが、その面白さは衰えるどころかさらに増すのですからさすがです。非常に面白いです。

そんなわけで順に(多少前後しますが)感想いきます。

まずは敏夫。上記のようについに屍鬼にやられてしまうわけですが、そのときの会話がじつに秀逸です(↓で一部抜粋しておきました)。

この小説の場合、人間の脅威は屍鬼ですが、鬼の部分を人間を取り巻く現実に置き換えてみると、実に含蓄のある言葉になるかと思います。

この後の行動も含めて敏夫はやっぱりいいですね。

ここで、後半できっとすごいことをしてくれるキーキャラだと思っていて、その冷静さ具合が妙に気に入っていた「タツ」さんが、まさかあんな行動にでるとは予想外でした。

確かに彼女らしいといえばらしいのですが、思わず笑ってしまいました。こういう小技もいいですね。

お次は、明らかになった屍鬼に対する村人たちの反応ですが、これがまたいい感じです。恐れをなしたり、逃げ出したり、怒りに身を震わせ復讐に向かったり。

もしこんな状況になった場合、果たして自分はどういった態度をとるのか。真面目に考えるとさらに面白さが増しますね。どの選択がが正しいかはわかりませんが、部屋主はたとえ身内であろうと杭を打てる人間でありたいものです。

で、この後あたりから、恐怖の質が変化します。ここまではひろがっていく屍鬼の怖さでしたが、正義の名の下に結束し、狩りをはじめた人間の怖さはそれ以上です。

特に「光男」の「死には慣れている、死体にも。鬼を怖いとも思わなかった~略~あれほど惨い真似をした狩人のほうが恐ろしかった」という独白と、ラスト前の寺での惨劇は、人間の恐ろしさを巧みの表現していると思います。

次は看護婦の「律子」と「夏野」の兄的存在である「徹」のエピソードが気に入っています(4巻の沙子の会話、そして↓で少し抜粋するこの後の展開と比較しながらだととても考えさせれます)。

それにしてもこの2人は実に人間臭くて好きです。律子は少し偶像的ですが、徹はこの物語の中で一番人間らしい弱さを持つ悲しいキャラのように思えて、実はかなりお気に入りだったりします。

で、これに続く「神に見放される」ということのくだりは泣けますね。

ここや、少し前に屍鬼(正確には違いますが)に対しての「あなた方を責める権利を、ぼくはもちません」という静信の言葉はまさにそのとおりだとは思います。

そして、ここまで何度も登場し加筆修正されていく静信の小説と屍鬼のリンクは実に「見事」です。

ここに「辰巳」の目線(これがまた面白い)も加わり、さらに色々と考えさせられます。ここまで辰巳はイマイチよくわからないキャラだったのですが、ここで少しその人物像がわかり好きになりました。

そしてクライマックス。

さらにここまでへタレ満開だった静信の思考に変化が現れ、上記の神に見放された存在について、その言動をもって一つの答えを出したように思います。

ただ、筋的には間違ってないと思うので納得はしてるのですが、この静信の行動は少々しっくりこないといえばこないです。とはいえ、ちゃんと動き出したので、最初は好き、途中嫌いになり、ここでまた盛り返した感じです。

それにしても色んな意味で非常に面白かったです。多くの方に読んでほしいと思える作品ですね。

あと、屍鬼と人間のドロドロとした血みどろの争いの部分で、もっとグロい展開も可能だったので、それが残念とえいば残念です。

とはいえ、あまりドロドロしすぎると、文学的・哲学的な部分が弱くなってしまう気がするので、これはこれで絶妙だとも思います。

この巻の部屋主がグッときた台詞

現実に鬼が目の前にいるのに、目を瞑って『これは夢だ』と言い聞かせているんだ。それを認めれば、連中は鬼に対峙しなきゃならん。それが怖いものだからそんなものがあるはずはないと自分に言い聞かせてる~略~分からなくて不安だから、どうなっているんだ、教えてくれ、と叫ぶ。この殺戮を止めてくれ、自分達の不安を取り除いて、安全を取り戻してくれと喚くくせに、鬼だ、だから鬼を倒せと言えば、そんなものはあるはずがない、と頑強に否定するんだ!どうなっているんだ、と言う。だからおれは教えてやった。これは屍鬼だ。どうにかしてくれ、と言うから、おれはどうにかできる方法を教えてやった。ところが連中はそんなものはあり得ないとほざく。おれの出した答えが気に入らないんだ。そうやって喚いていれば、誰かが自分にとって都合の良い答えを放り込んでくれると思っている~略~自分の頭で考える気はない。自分の体は指一本だって動かすつもりはない。喚いていれば現実のほうが連中の都合に合わせてくれると思ってるんだ。それ以外のことなんて考えてみたいくもない。連中は世界のなんたるかが分かっていない」by敏夫

耳が痛いです。

屍鬼なんているはずがない、という常識が、わたしたちを守ってくれる最大の武器なんだから

この小説を読んでいると、常識に対し色々と考えてしまいますね。

正義の名の下に団結した人間は恐ろしい。遺物を排除するときの人間の冷酷さは、よくわかっている

その正義が本当に正義であるかどうかは関係ないあたりが人間の恐ろしいところですね。

笑う、でしょう?たくさんの人を殺してきたの。本当に、ひっきりなしに殺してきたのよ?どんな残忍な人殺しだって、わたしほどたくさんの人を殺したりしてないと思うわ。わたしが殺されるのはその報いなの。なのに、すごく、怖いの

人の血でなくても生きられるなら、とっくにそうしていたわ。人を狩るのは怖いことなの。とても危険なことなんだもの。でも、人でないと駄目なの。人を狩るなということは、私に死ねと言うことよ。わたしが生きていることがいけないの?この世に存在すること罪なの?存在することが許されないほどわたしは罪深いの?でもわたし、好きでこんな生き物になったわけじゃないわ

・・・ホロリときますねぇ・・・

あらゆる生命は命を狩るんだ。人が、生物を生きるためには、必ず何かを犠牲にする。何かの犠牲なしに生きることのできるものなど、どこにもいない。有害であるものは有害であることによって、無害であるものは有益でないことによって、やはり何かを犠牲にしていく。人が世界の中で生きるということは、世界から自分の取り分を搾取して、自分以外のあらゆる他者を、自分のために折り曲げるということなんだ。そうとも-この地上波そもそも罪人の住まう流刑地なんだよ

ほんと、つくづくそう思います。

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コメント

1巻から5巻までのレビューを読み終え、
シンさんが仰っていたように、
単なるホラー小説ではないとしみじみ感じました。
ホント、奥が深い作品ですね。

それに登場人物もそれぞれ魅力的ですね。
「へタレ満開だった静信」は、特に気になります☆

レビューお疲れ様でした!(*^^)
じっくり読んでみたい作品です♪

投稿: caren | 2007年11月29日 (木) 12時12分

ただ怖い作品ではなく、「その時人はどう対応するか」にもかかっているんですね。
本屋さんでまず1巻探してみます。

投稿: 陸抗 | 2007年11月29日 (木) 16時30分

長編レビューおつかれさまでした。
ぼく自身もじっくり読んだ作品ですが
シンさんの記事を読んで
読み返してみたくなりました。

人間自体が生命を奪って生きている以上
自然に対する畏敬や感謝を感じていなければ
いけないと思います。

投稿: 月下 燕 | 2007年11月29日 (木) 22時19分

>carenさん
でしょ~
是非とも読んで見れおくれであります。
ポチッと画像をクリックすれば購入画面に飛びますし☆
登場人物がほんの脇役にいたるまで、
かなり入念に設定されてますのでほんと面白いですよ!
オススメです。

投稿: シン@部屋主 | 2007年11月29日 (木) 23時26分

>陸抗さん
いやほんとこの作品はオススメですよ^^
本屋で見つからなかった場合は、
いつものように左のアマゾンボックスからm(__)m
でもってやはり私は闘うという行動をとりたいですね。
自己中心的な人間ですので^^

投稿: シン@部屋主 | 2007年11月29日 (木) 23時29分

>月下燕さん
読むのも書くのも時間がかかりましたが、
いわゆる心地良い疲労というやつですね^^
これがあるから読書はやめられません(笑)
やはり人間はもっと色々と考えて、
自然や環境そして全ての生物に対し
接しなければならないと思います。
私は人間のこの罪深さに潰されそうな時もありますが・・・
何にせよこれらについて考えさせられる名作かと思います。

投稿: シン@部屋主 | 2007年11月29日 (木) 23時35分

全5巻レビュー、お疲れ様です♪
これを読破したシンさんには、続けて
京極氏の「どすこい(仮)」(文庫で
(安)も出てるそうです)をおすすめします。
「屍鬼」の他に「パラサイト・イブ」もどきも
登場するふざけた一冊ですw

投稿: あくびネコ | 2007年11月30日 (金) 09時25分

はぁー、いいですねー。レビューだけで感動しました。ぜひ読んでみます。

投稿: リタ | 2007年12月 4日 (火) 14時13分

>あくびネコさん
「どすこい」ですか?
コメントからして色々もじった作品なのですかね?
とりあえず積み本がいっぱいあるので
それをまず片付けてからにします(^^;

投稿: シン@部屋主 | 2007年12月 5日 (水) 19時33分

>リタさん
そういっていただければ幸いです^^
是非とも読んでみてください。

投稿: シン@部屋主 | 2007年12月 5日 (水) 19時34分

小野不由美作品、大好きです!
この作品、漫画化されましたね~。
漫画の方は表紙しか見ていないので、キチンと世界観が描けているか分りませんが、読む機会があったら読みたいな~と思う絵ではありました。
小野不由美作品では「十二国記」シリーズや、外伝(?)ともいえる「魔性の子」も面白いので、是非ご一読を!

投稿: ちいこ | 2008年7月31日 (木) 10時49分

>ちいこさん
小野氏の作品はコレともう1作しか読んでないので
全体として評価はできませんが
この作品に関しては名作中の名作かと思います。

漫画の方はこちらを意識して読むと、
けっこう違和感が強いかと思います。

小野氏の作品というよりも小野氏の作品を藤崎氏が、
自分なりにかなりアレンジしていると
思った方が良いかと思います。

「十二国記」シリーズは面白いとよく聞くので、
100冊以上の積み本がある程度片付いてからと思ってます。

投稿: シン@部屋主 | 2008年7月31日 (木) 19時25分

十二国記シリーズを読まれるなら、まず、魔性の子を読まれると良いかと思います。
内容は十二国記にリンクしてはいるのですが、この本単体でも十分に楽しめるホラー作品です。
これを読んだら、何故こんな事になったのか、どうしても十二国記を読まずにいられなくなります。
このトピの作品がお気に召したのなら、魔性の子、これ以上にお気に召す事でしょう。

投稿: ちいこ | 2008年7月31日 (木) 21時34分

>ちいこさん
「魔性の子」ですね。
了解しました。
例の「ギニョル」と注文するときに、
一緒に頼んでみようと思います。

投稿: シン@部屋主 | 2008年8月 1日 (金) 18時25分

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