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続 氷点 下

氷点 上」「氷点 下」「続 氷点 上」に続きまして、シリーズラストとなる「続 氷点 下」の感想をつぶやいていきたいと思います。

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Book 氷点 (続 下)

著者:三浦 綾子
販売元:角川書店
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部屋主の独断ランク:

   作品全体ランク:

かなりネタバレ注意です。

あらすじらしきもの

かつて、育ての父「啓造」や実の父「中川」が学んでいた「北大」へと陽子は進学します。そのキャンパスで陽子は1人の青年に話しかけられます。「あなたは僕の母にそっくりです」と・・・彼は「三井達哉」、陽子の「弟」でした

三井家では陽子の存在は知られていません。「母を崇拝している」という達哉に、自分が父違いの姉だともし知られると、三井家の平和で幸せな家庭が壊れてしまうので、陽子は極力達哉を避けるのですが、彼はその直情的な行動でどんどん陽子に接近してきます。

一方、陽子には新しい友人ができます。明るく元気な友人の名前は「順子」。彼女は徹に恋をしていて、それは「北原」・「徹」の2人から愛されながらも自殺未遂以降、心を閉ざしていた陽子に少しずつ影響を与えていきます。

そして、4人で支笏湖へ遊びにいった後、そこでの徹と北原の会話からある可能性を考えてしまった順子は、陽子へと手紙を出します。そこに書かれていた事実は陽子に衝撃を与えるもののでした・・・

部屋主の感想

今巻で「氷点」シリーズはラストを迎えるわけですが、ここまで以上に実に示唆に富んだ内容となっています。いよいよ「罪のゆるし」という壮大なテーマへの著者の挑戦が表現されています。

全体的な物語的な流れとしては前半部は大して重くありませんので部屋主はそんなに好きではありません。ようは達哉が徐々に陽子の正体にせまっていく感じです。それはそれで楽しむべきところなのでしょうが、どうにもこの達哉が好きになれないので、いまいちでした。

後半も物語的には強引かつそれでいいのか的な展開でいまいち好きにはなれません。とはいえ考えさせてくれることに関しては相当なものがあります。

啓造は相変わらず、他人の言動(おもに陽子や順子)から自分のとった行動を反省しまくってます。特に、ある人の出生の秘密を知った後に、自分を酷い人間だと認め、彼女にも詫びねばならんと思うあたりは実に良いです。

でもその後も、何度も何度も憎しみの芽が出てきて、その度に客観的に自分を考え自己嫌悪して悩むあたりもまた人間らしくて素敵です。京都での、とても誠実なお爺さんとの邂逅場面や、枯山水を見たときの感想(全ての存在の意義と使命とつながりについて)なんかもなかなか気に入ってます。

今巻の特徴としては、夏枝があまりムカつかないというのもあったりします。特に成長は見られず、相変わらずわがままなのですが、それゆえに正論で恵子や啓造を責めるところは胸がスッとします。罪を犯した人間はしっかり責められるべきだと部屋主は思っているからです。

さて、次は恵子ですが、彼女は夫を裏切って陽子を生んだその後、徹が現れるまでそのことをほとんど忘れてのうのうと生きてました。裏切りによって1人の人間を不幸のどん底に落としておいて、自分だけは幸せになる・・・そんなことが許されていいのでしょうか?否、許されてよいわけがない、と部屋主は思います。

この小説の中で、陽子も部屋主の考えと同じように自分を裏切りの中で生んだ恵子をゆすせずに恨み「人間はみにくい」という結論を出します。もちろんそうやって母を憎む自分自身も同様に醜い人間にカテゴライズしてるのはさすがです。

ですが同時に「ゆるさなければならない」、「自分もゆるしてもらわねばならない」とも考えはじめます。ですが、どうやってもわびたりゆるしたりできない自分を「寛容を持ち合わせていない」人間だとも思いはじめるのです。また、ゆるすことの「困難さ」と「不可解さ」という問題、さらには↓でまた述べる「罪の事実」の問題について陽子は直面します。

この後、物語は「愛の有無」、「わびる」ことの清々しさ、「責める資格」、「罪の自覚」、「罪とはつぐなえきれるのか」、「罪のゆるし」といったことへと進んでいきます。

ここでは「自分が正しいと神に祈るパリサイ人」の話が登場します。その聖書の一節から啓造は「自分を正しいと思うこと」の傲慢さを知り、自己嫌悪に走ります。次いで罪の自覚と責める資格に思考が展開し、そしてはそれは「ゆるすこと」つながっていきます。

陽子も同様に、「罪とはつぐいきれるものなのか?」という疑問にはじまり、自分の正当性ばかりを訴える自分の冷たさと醜さの認識し、啓造から教えてもらったヨハネによる福音書8章によって罪の自覚と責める資格について考え、そして「罪はゆるされる以外にどうしようもないのかもしれない」と思うようになっていきます。しかし、「人間同士の不完全なゆるしでは真の解決にならない」と、「真に罪をゆるし得る唯一の権威あるものの存在」へと思考を展開していきます。

実に考えさせられる内容だと思いませんか?ここを読んでくれてる皆様も一緒に悩んでくれると嬉しいなぁと部屋主は思います。

とまぁこんな風に1つの解決が見えたかような感じで物語は幕を下ろします。ただ、部屋主個人としては、少し不満がのこります。なぜかというと、この物語では罪を犯した人間はどうすべきかという答えが提示されていないような気がするからです。陽子、啓造、恵子がコレについて色々と考えていますが、何かしらの結論を出してるように思えません。

罪に対しては、陽子や啓造が思い至った「罪の自覚」や「ゆるし」以外の解答はとりあえず今の部屋主には考えつきませんが、人や権威あるものがゆるしてくれたとしても、それで自分をゆるしていいのとはまた別だと思います。たとえ誰がゆるしてくれても、自分で自分をゆるすのは甘えだと思うし、それによって新たな罪が生まれる可能性がより高くなると考えるからです。

作中で陽子も「たとえあの人がゆるしてくれたとしても、わたしが裏切ったという事実は、厳然としてこの世にとどまっているような気がしてならなかった」、と、「罪の事実」を問題にしています。たとえ誰が許してくれても、罪の事実が消えることはないのです。

となると、罪を犯したものは生涯苦しまねばならんというしんどい事態になるのですよね。そうなると人生とは苦しみだけのような気がしてあれですが、罪を犯したのなら当然といえば当然でしょう。罪を犯したらずっと苦しむというのが部屋主個人としはしっくりきます

とはいったものの、やはりどこかで「ゆるし」、もしくはそれに代わる何かが必要とも思っています。なぜなら罪について苦しむ人間は周りの人間を不幸へと追いやる可能性があるからです。そんなこんなで、結局は啓造や陽子と同じような答えへといきつくような感じなってしまったりという一面ももちろんあったりです。

部屋主は現時点では、自分を含めて色んなことがゆるせない感じの醜い人間です(罪の自覚のある部分では人を責める資格はないですが、それを割り切れないといった感じ。また、自分に罪の自覚のない分野では怒りまくってるという感じです)。そういうわけで、とりあえずは、自分の罪からは逃げずに、苦しかろうともしっかりと考えながら生きていこうと思っています。そして願わくば、人をゆるせる優しさはいつかは持ちたいように思っています。

あと、罪の認識が甘く罪を罪と思わない人といった問題や、「罰」や「裁き」といったことにも特に触れられていない感じがするので、それはそれで残念かと思います。

それにしても、この氷点シリーズの記事は疲れました。否が応でも自分醜さを認識させられますので。なにやら色んなことが書けてない感じがしないでもないですが記事にできてよかったです。自己満足ですいません。

この本の部屋主がグッときた言葉

生まれて来て悪かった人間なら、生まれて来てよかったとみんなにいわれる人間になりたい」by陽子

不義の子として生まれたというどんなに努力しても消えない事実に悩みながらも出した1つの答えです。確かにそう思われる人間になりたいものですね。

長年の苦しみにも意義があった、決して無駄ではなかったという思いだった。~が憎まれるよりは、この自分が憎まれてよかった」by陽子

こう思える陽子はほんといい子だと思います。部屋主のような利己的な人間だときっとなんで自分がこんな目にとの凹むだけのはずですから。彼女のような優しさを持ちたいものですね。

傷つけたいとは思わないけど、人間なんて、つきあってる限りの人間に、傷つける存在じゃないのかなぁ。かすり傷が深傷のちがいはあってもさ」by徹

たしかにその通りです。ならどうすればよいのでしょうか。互いに傷つけないように気をつければよいのでしょうか。それとも傷ついてもいいからしっかり真正面から向き合うのがいいのでしょうか。まぁバランスなんでしょうが。

人を恨むって辛いことよ」by陽子

そうわかっていても恨んでしまうのが哀しい人の性というものでしょうか・・・

あなたさえ幸せになればいいんだ。ぼくはつらいけど、やっぱり祝福しますよ

ネタバレするんで誰の台詞かは書きませんが、男前すぎですよね。部屋主にはとても真似できないカッコ良さです。こんな潔い男になりたいと思いつつも、諦めの悪さも必要だとも思ってたりです。

この巻から部屋主が選ぶ格言

罪を犯すって、恐ろしいことですわ。~心がいつもにごっている、不透明な人間になりましたわ。一つの罪は、さらに自分の心の中に、罪を呼ぶのでしょうね。そして育てるのでしょうね」by恵子

全くもってその通りだと思います。だから人は罪を犯さないように生きなければと思います。ただ、そう思っていても罪は犯してしまうもの。さて、どうすればよういのでしょうか。

人を責める前に、自分たちの落ち度も反省すべきだ」by啓造

確かにその通りなのですが、責められるべき人はきちんと責められるべきだと思います。こう思うのは部屋主は心が狭いのかなぁ。

包帯を巻いてやれないのなら、他人の傷に触れてはならない」by順子の家の格言

その通りかと。カッコいい言葉ですね。

たとえ全財産を施しても、体を焼かれるために渡しても、愛がなければいっさいは無益である」by聖書

何をもって愛とするかはわかりませんが、言わんとするところのものは理解できます。そして己の下心に気づかされ、その不純さに毎度のこと凹む部屋主でございます。

ゆるせない思いというのは、決して幸せじゃないからね」by徹

確かにその通りですね。でもそうは思っていても簡単にゆるせないのが人間というものでしょう。陽子もこの台詞が出る会話を徹としている時点では、母恵子をゆるせないと思っています。

気持ち一つね。問題はその気になるかどうかよ」by辰子

辰子がタバコを止めたときの台詞です。この本のというか、人生における様々なことがこれで解決する気が・・・とはいえ、これが困難であることはいうまでもないですよね。そうなってもなかなか難しいですし。

すべてのこと、相働きて益となる」by順子

だといいんですけどね。様々な困難に見舞われながらも、この考えもとでまっすぐに生きてる順子は素敵です。

愛とは感情ではなく、意志である」by啓造

これは面白い考え方ではないでしょうか。言われてみれば確かにその通りのように部屋主は思いました。人にとってこの意志とは何よりも大事なものだと思います。

あなたがたの中で、罪のない者が、まずこの女に石をなげなさい」by聖書

ヨハネによる福音書8章1節から11節の中の言葉です。姦通(当時の法律では死刑)の現場から引きずりだされた女が、衆人に石で打ち殺されるかどうかの場面でのキリストの台詞です。実に深いです。皆様ならどうしますか?きちんとその女性を罰した後に自分も罰を受けるという案があるのですがどうですかね。

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コメント

シンさん、こんばんは。

この『氷点』レビューシリーズ?は大作ですね~。お疲れ様です。
人の罪とか罰とかって、やっぱり重く難しいテーマですね。

こういうお話を読んだりニュースとか見てていろいろ考えたりしますが、では実際当事者になればどうなのだろう?ということに行き当たってしまいます。
普段はかなりぽんやりしてるので、こういうのを考えただけでも良かったか、っていっつもなるんですけど、ちょっと自己嫌悪に陥ったりしますね…

投稿: ちきちき | 2007年2月13日 (火) 21時01分

>ちきちきさん
いや~ほんと時間的にも精神的にも疲れました(^^;
重く難しいだけに非常に苦しいですが
そのぶん得るものはあると思います。
このような場面ではないですが
私も自分の中の醜い自分をつくづくと感じたことがあります。
以来ずっとそれに苛まれている感じで・・・
よろしかったらじっくり読んでみてほしいかな。
きっと何かしら得られるものがあると思いますm(__)m

投稿: シン@部屋主 | 2007年2月13日 (火) 21時41分

奥が深い作品ですね。
>罪を犯した人間はどうすべきかという答えが
 提示されていないような気がするからです。
とありましたが、明確な答えは無いような気がします。
それが、罪を犯した者への罰なのではないかと・・・
でも、本当に難しいですね。うーん・・・

シンさんの氷点レビュー、とても参考になりました。
お疲れ様です。(*^-^)
じっくり読んでみたいと思います。

投稿: caren | 2007年2月14日 (水) 13時28分

>carenさん
確かに私も明確な答えはないように思います。
そしてそれが罰だと私も思います。

ただそうなると「続氷点上」の感想のところで書きましたように、全ての人間は気づいてないだけで罪人であるということ、より厳しい罪の基準をもって自らを律している人ほどより苦しみ悩むという、およそ納得いかないことになってしまう気がするのですよ・・・
という風に考えると次は・・・といった具合に
次々と新しい難問が生まれてくる感じがしまして。
実に難しいです(;´д`)
この長い記事を読んでくれてありがとうございますm(__)m

投稿: シン@部屋主 | 2007年2月14日 (水) 14時56分

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